研究概要 |
アルツハイマー病因ペプチドであるβアミロイド(Aβ42)は,凝集することによって神経細胞毒性を示す.本研究代表者らは最近,Aβ42が22位付近でターン構造を形成すると,凝集能および神経細胞毒性が増大することを見いだした.Aβ42凝集体における本ターン構造の存在を検証するため,21〜27位の立体構造を固体NMRで解析した.21〜27位を^<13>Cで部位特異的に複数のパターンで標識したAβ42の凝集体を調製し,DARR法およびR2法によって^<13>C-^<13>Cの核間距離を測定した.その結果,Aβ42凝集体は21〜27位の間でゆるやかに曲がっていることが示唆され,明確な22位でのターン構造は検出されなかった.Aβ42では,Glu-32とAsp-23の側鎖同士の静電的反発により22位付近でのターン構造を形成しにくいものと推定される. 22位付近でのターン形成が,凝集能および神経細胞毒性を高める理由の一つとして,金属イオン存在下で生じた10位チロシン残基(Tyr-10)のフェノキシラジカルと35位メチオニン残基(Met-35)が空間的に近づき,メチオニンのカチオンラジカル生成を促進することが挙げられる.本仮説を実証するため,Tyr-10およびMet-35の空間的な距離を,電子スピン共鳴法(ESR)により測定した.Aβ42の10,35位の両方をシステイン残基で置換し,S-S結合を介してスピンラベル(MTSSL)を導入した.10,35位ともにラベルしたAβ42のESRを測定したところ,ニトロキシドラジカルを示す3重線に加えて,2つの電子スピン間の双極子相互作用を示す特徴的な2重線が観測された.対照として,片方ずつラベルしたAβ42ではこのようなピークは検出されなかった.これより,本双極子相互作用は,分子内の2つの電子スピンによるものであり,両残基は15Å以下の距離にあることが示唆された.
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