研究概要 |
アルツハイマー病の原因物質である42残基のβアミロイドペプチド(Aβ42)は,神経細胞毒性とともに高い凝集性を示す.Aβ42は22〜27番目のアミノ酸残基にかけてターン構造をとることが指摘されていたが,その正確な位置は不明であった.そこで,19〜29番目の各アミノ酸残基を,βシート構造をとりにくくターン構造をとりやすいプロリンで置換したペプチドが,単量体と凝集体との間で平衡に達した時の臨界濃度を測定し,それぞれの熱力学的安定性を調べた.その結果,E22P-Aβ42,D23P-Aβ42,G25P-Aβ42及びS26P-Aβ42は,19-29番目の他のプロリン置換体と比べて顕著に安定な凝集体を形成していることが示唆された.これより,Aβ42凝集体には,Glu-22及びAsp-23付近とGly-25及びSer-26付近にそれぞれターン構造を有する2つのコンホマーが含まれているものと考えられた.これらのターン構造が実際にAβ42凝集体に存在するかどうかを調べる目的で,固体NMRによる構造解析を行なった.DARR法(2次元距離相関スペクトル)による詳細な構造解析ならびに化学シフト値に基づく2次構造予測によって,Glu-22及びAsp-23付近とGly-25及びSer-26付近にそれぞれターン構造を有する2つのコンホマーの存在が強く示唆された.プロリン置換体の凝集能ならびに神経細胞毒性の高い前者が毒性コンホマーと考えられる.一方で,Aβ42の凝集を阻害する天然有機化合物を検索したところ,マリアアザミ種子のメタノール抽出物であるシリマリンに顕著な活性を認めた.シリマリンよりフラボノイド7種(1種は新規化合物)を単離・同定し,これらの中でタキシフォリンが最も高い凝集阻害活性ならびに神経細胞毒性阻害活性を示した.
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