本年度は、エネルギーセンシングのうち、ケトン体のセンシングに焦点を当てて実験を実施した。ケトン体の脳内への直接投与により、摂食が誘起されることから、ケトン体は脳に対して負のエネルギーシグナルとして働くと考えている。本実験では、ケトーシスモデルの1つとして糖尿病に着目し、糖尿病による過食は、増加したケトン体が後脳のセンサー細胞に感知されることが原因ではないかという仮説をたてた。そこで、ケトン体の輸送体の一つであるmonocarboxylate transporter 1(MCT1)の阻害剤の脳内投与による糖尿病ラットの過食に及ぼす影響について検討した。4VにMCT1阻害剤のp-Chloromercuri benzene sulphonic acid(pCMBS)を投与し摂食量を測定した結果、糖尿病群ではpCMBS投与により、投与量依存的に摂食量が抑制され、対照群のレベルにまで減少した。一方、対照群では、pCMBS投与により、摂食量に変化は見られなかった。また、糖尿病群において、vehicle投与と比べてpCMBS投与により、血糖値レベルの減少傾向が見られた。 また、MCT1が4V周囲の上衣細胞に発現していることを免疫組織化学的に明らかとした。さらに、4V周囲の上衣細胞を取り出し、in vitroの培養実験を行った。その結果、ほとんどの上衣細胞において、その細胞内カルシウム濃度が3HBにより濃度依存的に上昇を示すことを発見した。 これらのことから、4V周囲の上衣細胞が脳内ケトン体センサーである可能性が強く示唆された。さらに糖尿病や飢餓など、異常なエネルギー代謝時に誘起されるケトーシスにおいて、ケトン体自身が脳のセンサーに働き、摂食量を増加させている可能性が示された。
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