研究概要 |
プリオン感染マウスの神経組織における網羅的遺伝子発現解析から、感染後早期から脳で発現が上昇する遺伝子群を絞り込んできた。その中で、本年はLPSレセプターとして知られミクログリアの活性化に関与するCD14遺伝子に着目し、CD14遺伝子欠損(CD14^<-/->)マウスを用いてプリオン感染実験を行った。プリオンChandler株およびObihiro株を接種した場合、CD14^<-/->マウスではWTマウスと比較して生存期間が延長したことから、CD14分子は病態の進行を促進する方向に働くことが示唆された。抗Iba1抗体による免疫組織化学では、CD14^<-/->マウスでWTマウスよりもミクログリアが活性している傾向が認められ、ミクログリアの数もCD14^<-/->マウスで多かった。またCD14^<-/->マウスでは、CD11b,CD45,CD68,F4/80などの活性化ミクログリアのマーカー分子の発現も亢進していた。従って、ミクログリアの活性化亢進は、プリオン病の病態に対して神経保護に作用する可能性が示唆された。一方、別の活性化ミクログリアのマーカーであるMac-2分子の発現は、WTとCD14^<-/->マウスで顕著な差は認められなかった。この結果から、WTマウスとCD14^<-/->マウスで、一部のミクログリアは活性化状態が異なることが示唆された。CD14^<-/->マウスではWTマウスに比べ、より早期から抗炎症性サイトカインであるTGF-βやIL-10の発現が亢進していたことから、活性化ミクログリアから放出される抗炎症性サイトカインが病態進行に対して抑制的に作用した結果、プリオン感染CD14^<-/->マウスの潜伏期が延長した可能性がある。ミクログリアの活性化は神経変性疾患では諸刃の剣であり、病態進行に抑制的あるいは促進的の両方に作用することが知られているが、プリオン病では、ミクログリアの活性化は病態進行に抑制的に作用することが示唆された。
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