雌性生殖器での精子機能制御に関する研究を行い、次のような成果を得た。 ES細胞経由で精子セリンプロテアーゼTesp5の欠損マウスを作製し、その産仔産生能を検討したところ、オス、メスマウスとも正常であった。しかし、体外受精試験によって精巣上体精子を調べてみると、Tesp5欠損マウスでは著しく受精能が低下していた。次に、Tesp5欠損マウス精子を子宮内に注入し24時間後に受精卵を回収すると、野生型マウスと同程度の受精率であった。また、自然交尾後直ちに子宮から精子を回収して体外受精試験を行うと、著しい受精率の上昇が認められた。さらに、Tesp5欠損マウス精巣上体精子を用いた体外受精で子宮分泌液を添加すると、その精子の受精能だけでなく、卵子透明帯結合能や卵子との融合能も顕著に増加していた。しかし、Tesp5欠損マウス精子の透明帯上でのアクロソーム反応は子宮分泌液添加でも改善されず、同時に精子の透明帯通過能が非常に低いことが認められた。これらの結果から、子宮分泌液中にTesp5の欠損を補償する何らかの因子が存在することと、Tesp5は精子の卵子透明帯通過で機能していることが明らかになった。一方、精子と卵子の相互作用の分子機構を明らかにするために、精子の卵丘細胞層通過で機能していると推測された新規ピアルロニダーゼHya15の欠損マウスを作製した。予想に反して、その欠損マウス精子は野生型と同程度の卵丘細胞分散能を有していた。すでに同定されているPh-20欠損マウス精子との比較検討によって、精子の卵丘細胞層通過ではHyal5ではなくPh-20がその中心的な役割を演じていることが明確になった。一方、輸卵管での精子接着分子の候補として、輸卵管細胞外マトリックスタンパク質Sdk-2を同定した。詳細な検討の結果、Sdk-2にはふたつのアイソフォームがあり、N末端側のIgドメインが精子との接着に関与していることが明らかになった。
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