我々は基質遷移状態概念に基づいて、アスパラギン酸プロテアーゼに属するHIVプロテアーゼ阻害剤のデザインと合成を行い、ヒドロキシメチルカルボニル(HMC)イソステアが、理想的な遷移状態ミミックであることを見いだした。さらに、低分子化にも成功した。このKNI化合物は「Nature Reviews : Drug Discovery」に取り上げられるなど大きな反響を呼び、これらの低分子HIVプロテアーゼ阻害剤は、次世代抗HIV薬として期待されている。 そこでHMCイソステアを含むジペプチド型HIVプロテアーゼ阻害剤をデザインすることにより、組織移行性の高い低用量抗HIV薬の開発をめざす。さらに、ジペプチド型低分子HIVプロテアーゼ阻害剤は、既存薬耐性ウイルスに効力を示しており、変異のパターンも異なっていることから耐性と副作用の問題点克服の可能性があり、変異酵素と阻害剤の分子認識解析に基づいてデザインすることは重要である。 このようなアスパラギン酸プロテアーゼにおける有用な阻害剤設計の方法論を、マラリア発症に重要な役割を果たすplasmepsin類、アルツハイマー病に関与しているアミロイドβペプチドを生成するβセクレターゼ(BACE1)、成人T細胞白血病発症に重要なHTLV-1プロテアーゼに応用して、マラリア、アルツハイマー病、白血病のような難病克服を目指した分子認識に基づく治療薬のデザイン・合成と構造最適化・プロドラッグ等の医薬化学研究を行いその開発への指針を示す。
|