本研究の目的は抗血小板薬の薬効予測やモニタリングに有用な物質を探索し、実際の臨床検査に応用することにある。そのために抗血小板薬服用者あるいは服用予定者からの血液サンプルを用いて抗血小板薬の反応性を予測しうる因子を探索する。探索により選定された因子に関しては遺伝子改変を幹細胞に施行し、in vitro分化誘導にて得た遺伝子改変血小板を対象に抗血小板薬との反応性を検討する。平成20年度は、1.抗血小板薬服用の患者登録を約350名とした。血小板機能や既知候補物質の測定値、遺伝子解析結果のデータベース作成と解析用血液サンプルの調整・保存を行った。2.アスピリン服用(n=2)前後[ASA(-/+)]の血漿サンプルを対象にプロテオーム定量解析を行い、ASA(-/+)で有意(p<0.05)な発現変化が216因子に認められた。2名のサンプルいずれにおいてもその有意な変化が認められた9因子のなかで、AsA(-)に比しAsA(+)で発現増加を示した血小板膜受容体GPIbαは平成19年度に行った候補因子解析においても血小板のASA反応性の関連を認め(後述)、その遺伝子ターゲティング条件検討の結果とともに報告した。GPIbαは細胞外ドメインが切断されると血小板機能抑制・血栓形成能の抑制が認められる。ASAがその切断を促進する事が報告されたため、平成19年度は、抗血小板薬としてASA単剤服用の患者サンプルを対象に行った血小板機能解析の結果に基づきASA感受性群・抵抗性群に分け両群における血漿中のGPIbα切断フラグメント濃度を測定し、ASA抵抗性群で有意にその低値を認めた。平成20年度に施行した網羅的解析においても血漿中GPIbα切断フラグメントレベルがASA(-)に比しASA(+)で有意な発現増加を示した。以上、研究計画3年目である平成20年度は抗血小板薬服用の患者サンプル収集、機能解析や遺伝子解析結果のデータベース作成、過去2年間の研究結果に基づいた候補因子研究、そしてプロテオーム定量解析に重点をおいた研究を遂行した。
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