研究概要 |
神経・筋疾患による疼痛は、視床痛、幻肢痛を初めとする極めて難治性かつ発症のメカニズムが明らかでは無いものが多い。種々の非侵襲的計測法を用いてヒトの脳内痛覚認知機構を明らかにすること、及び、基礎的研究によって得られた知見を元にして除痛治療を行う事、すなわち神経・筋疾患による疼痛治療におけるEvidence-Based Medicineの施行が主要研究目的である。 本年度は4編の英文原著論文を発表した(印刷中を含む)。主要な2論文について内容を紹介する。 動脈の圧受容器が痛覚認知に影響するか否かを痛覚関連誘発脳波を用いて解析した。収縮期には脳波の振幅は拡張期よりも有意に低下している事がわかり、動脈の圧受容器が痛覚認知に影響を及ぼすことが立証された。これは英国バーミンガム大学との共同研究である(Edwards et al.,Pain,2008)。 痛覚認知におけるposterior parietal cortex(PPC)の役割について、第1次体性感覚野と第2次体性感覚野の活動との関連を含めて詳細に解析した。PPCの活動はおそらく第1次体性感覚野の活動に引き続いて現れ、PPCの中でもinferior parietal lobule(BA 40)が痛覚認知に重要であることを発見した。本論文は日本大学、大阪大学との共同研究によってなされた(Nakata et al.,Neuroimage,2008)。 痛覚認知に関与する脳部位が次第に明らかになりつつある。また、これまで経験的に行われてきた外科的除痛療法の作用機序を、基礎的知見に基づいて解釈できるようになってきた。同様に、大脳に情報を送りあるいは情報が送られてくる脊髄の機能も明らかになってきた。今後は、末梢神経、脊髄、脳幹、大脳を総合的に解析してくる必要があることがあらためて認識された。
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