研究概要 |
Adiponectinは,インスリン感受性増加等の作用を持つ重要なサイトカインであり,特異的receptorであるAdipoR1とAdipoR2を介して細胞のエネルギー維持の調節因子であるAMPkinase(AMPK)を活性化し,その作用を発揮する.Adiponectinは,この抗糖尿病作用の他に,抗炎症,抗血管新生等の様々な作用を持つことが知られている.近年,子宮内膜症や子宮内膜癌の患者では血清adiponectin濃度が低下していることが報告され,adiponectinが子宮内膜において何らかの役割を果たしていると考えられた.そこで我々は,子宮内膜におけるadiponectin receptor(AdipoR1,AdipoR2)の発現の有無を調べ,その役割についての検討を行った. 患者の同意の下,良性婦人科疾患の手術検体より子宮内膜を採取し,ヒト子宮内膜間質細胞(ESC)および上皮細胞(EEC)を分離培養した.定量的PCR法,in situ hybridization法,、Western blot法にて,ヒト子宮内膜にadiponectin receptorのmRNAおよび蛋白の発現があることが示された.AdipoR1,AdipoR2は月経周期を通じて発現しており,分泌期中期に有意に亢進していた.EECとESCではAdipoR1,AdipoR2の発現は組織学的に同程度であった.Western blot法にて,adiponectin(10〜50μg/ml)は用量依存性にAMPKのリン酸化を惹起し,子宮内膜に発現するAdipoR1,R2が機能していることが示された.ELISA法にて,adiponectinの投与はinterleukin(IL)-1βによってESGに誘導される炎症性サイトカイン(IL-6,IL-8,monocyte chemoattractant protein(MCP)-1)の分泌を経時的に低下させることが示され,24時間では半減した. 本検討により,ヒト子宮内膜にAdipoR1,AdipoR2が発現していることが初めて示された.Adiponectinは子宮内膜においてこれらのreceptorを介してAMPKのリン酸化による抗炎症作用やエネルギー維持作用を発揮し,子宮内膜症の抑制や着床期における生殖生理に関与している可能性が示唆された. さらに、我々は子宮内膜でのCXCL11/CXCR3システムが着床に大きく関与している可能性を明らかにし、自然免疫の重要分子であるToll-like Receptorの子宮内膜での発現様式を明らかにした。
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