研究概要 |
口腔は,細菌やウイルス感染に対しての最前線の防御システムとして機能している。口腔粘膜の機能の低下ないし破綻は,口腔粘膜疾患だけではなく,感染症をはじめとする様々な全身疾患の発症に直結している。われわれは,ストレス応答シグナルの制御分子であるASK1が,様々な物理化学的ストレスに対する細胞内での情報処理を担うことを明らかにしてきたが,ごく最近になり,ASK1が下流のp38MAPキナーゼを介して,感染初期の迅速な生体防御機構である自然免疫応答において極めて重要な役割を担っていることを明らかにした。本年度はASKファミリーによる自然免疫制御機構が粘膜免疫においてどのような役割を担っているかを解明することを目的として研究を行い、以下の結果を得た。1)ASK1は自然免疫系ではp38特異的にシグナルを伝達する。2)ASK1はLPS受容体であるTLR4の下流で特異的に活性化され,サイトカイン産生を促進する。3)ASK1ノックアウトマウスは敗血症モデル(LPS大量投与)に耐性である。4)ASK1ノックアウトマウスはリステリア菌感染に脆弱である。5)ASK1-p38経路はマクロファージの食作用に重要な役割を果たしている。6)ASK1結合分子を酵母two-hybrid法やプルダウンーMASS解析によって検索した結果,ファゴソーム形成に関わる可能性のある分子が多数同定された。7)ASK1ノックアウトマウス由来の抗原提示細胞では,刺激依存的なMHCクラスII分子の細胞表面への発現が低下している。8)ASK1ならびにASK2は口腔を含む粘膜上皮(特に顆粒層)に高い発現を示す。以上の結果は,ASKファミリーが下流のp38MAPキナーゼ等を介して粘膜における自然免疫機構において非常に重要な役割を担っていることを示している。
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