研究概要 |
研究代表者の武井は,パナマのパナマ県ベラクルス市コスクナ地区のクナ人コミュニティで聞き取り調査を行い,クナ人の故地であるクナジャラ自治県でも短期調査を実施し,第二次大戦前に起こった「クナ革命」によって自己の領土を守った歴史と,経済的には貧困層を形成している現在とに形作られるクナ人アイデンティティの基本的輪郭が明らかになりつつある。また,チリではサンチャゴ市フロリダ区,ラ・ピンターナ区でマプチェ人先住民組織カルフリカンの成員を中心に家庭訪問調査を行い,組織の有り様やその活動が人々のアイデンティテイに及ぼす影響について興味深い語りが収集できた。さらに,チリ南部テムコ市の公立のマプチェ伝統医療センターでの参与観察を通じて,伝統医療公認のさまざまな影響をも知ることができた. 研究分担社の北森は,ブラジルのリオデジャネイロにおいて,貧困地区住民のみならず,社会的に排除されている人々(住む家を失った人,前科のある人,コミュニティを追い出された人など)の受入れ施設と,その対極に位置づけられるであろう,貧困地区における大学進学者の輩出を目指す私立学校を訪問し,研究者の専門知と貧困者の実践知の間に立つ視点を有するスタッフに貧困者のアイデンティティに関する聞き取り調査を行った。 研究協力者の内藤は,2007年9月10日〜23日,2008年3月4日〜15日にチリ・サンチャゴ市に出張し,貧困地区の住環境調査および,家庭訪問、路上観察を行った。具体的には,自治レベルでの対スラム地区環境整備計画の調査,スラム住民の心身の健康不安をめぐる対処の考察をすすめた。貧困という住環境とマイナスの社会イメージを受容し続ける日常がいかなる「弱者」アイデンティティ形成をうながすか,事例をもとに明らかにしつつある。
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