武井はパナマ・ベラクルス市コスクナ地区、およびクナジャラ自治県ウストゥプ地区にてクナ人の調査を、チリ・サンチャゴ市、およびテムコ市での調査を実施した。パナマでは国際NGOによる貧困層、先住民への起業支援プログラムが両調査地域で開始され、クナ人から提案されるもののコミュニティ志向性の強さがクナ・アイデンティティと強い関連があることが示唆された。チリでは、マプチェ人家庭訪問を続行し、また、南部のテムコ市調査には協力関係にあるカルフリカンのメンバーと同行できたことによって、同地域の先住民医療状況に踏み込めたことと、共著者となる人びととの意見交換で大きな進展があった。 北森は、前年度の継続で、ブラジル・リオデジャネイロ市の貧困地区住民からの聞き取り調査を実施した。さらに、本研究の課題の一つである、政府や知識人などの「専門知」と貧困地区住民などの「実践知」の関係をめぐって、中間(仲介)に位置する「知」の重要性の認識から、住む家をもたない人々の収容施設やNGOを訪問し、そのスタッフからも聞き取り調査を実施し「専門知」と「実践知」を繋ぐ「知」をも含めたダイナミズムを探求した。 研究協力者の内藤はチリ・サンチャゴ市ペニャロレン区とサン・ラモン区の低所得者居住区家庭訪問および路上観察と、Fundacion SolidaridadというNGOのアンテナハウスにおいて、貧困者の制作した民芸品販売現場の調査をすすめた。本NGO活動は、いわゆる「被開発者」「被支援者」という立場認識が少ない形での支援が行われているようで、弱者のアイデンティティ構築のプロセスについて興味深い考察の対象である。
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