研究概要 |
平成20年度は、次のような現地調査が実施され成果を上げた。関根によるイギリスのロンドン、バーミンガム、レスターにおける南アジア系移民会調査から、トランスナショナリズムの歴史的由来と、同時代的共存におけるアドホックな地域的融合とのふたつの射程の解明が不可欠と自覚された。小馬は、東アフリカのナイロビの都市ストリートを発祥地とする若者文化と結合した混成的な言語シェン語の発達変容を追究し、ストリート言語の創造性を論じた。鈴木裕之は、西アフリカの大都市アビジャンにおいて2002年政変以降のストリート状況をポピュラー音楽に焦点化して解明している。支配構造の変容と庶民文化の創造力との交渉がここでも重要であった。松本は、戦前のオーストラリアへの日本人移民の二世・三世などが一世の出身地を訪問交流するという新事態を、観光化を伴うトランスナショナル現象の一断面として調査した。玉置はユニークフェイスと化粧を研究する過程で、それへのサポート運動自体がトランスナショナルなメディア環境の進展で変容してきたとする。近森は大阪における地下鉄導入の経緯を詳しく調べ、そこに上からの都市計画でありながら、ストリート性に通じる過剰性を見出し、近代の計画実践にはらまれる無意識のねじれに注目した。内藤は、チリのサンチャゴ市で近年の民芸品をめぐってグローバリティ、ナショナリティ、ローカリティの三者の絡み合いを検討した。朝日は、カンボジアにおける伝統的染織業をめぐって、鈴木晋介はスリランカのキャンディ市のストリート現象をめぐって、トランスナショナリティとローカルな活動の影響関係を考察した。総じて、着実に本科研の目的に沿った世界各国からのデータ蓄積が進んでいる。これまでの3年間の研究蓄積が、中間報告的位置を占める、関根康正編著『ストリートの人類学上巻、下巻』(SER80,SER81)国立民族博物館(2009年3月31日刊行)に結実している。
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