本研究の目的は、「下からの視点」と重なるヒューリスティック・アプローチを特徴とする人類学的方法・視座をもって、グローバル・フローの吹き荒れる現代の生活世界の現実に接近し、できるだけ正確に描写・分析することにある。その意味で、本研究は多くの研究が展開するトランスナショナリズム研究の一翼を担うものであるとしても、非定住的な「ストリート」現象に特に注目することが大きな特長である。 ここで「ストリート」という概念は、二つの意味を含意する。第一の意味では、まさに個々の実在の街路としてのストリートそのものをめぐる現象であり、第二の意味では、ヒト、モノ、コトバのグローバル化ないしトランスナショナル・フローという交通現象を「拡張したストリート」の次元をとらえる。ストリート性は、キーメタファーとして研究の中心軸なる。 従来の研究では看過されがちであった、グローバリゼーションによって活性化するローカリティ(「勝利するローカリティ」)ではなく、抑圧され駆逐される「敗北したローカリティ」の救出に明確に標準を定める。「下からのトランスナショナリズム」をさらに詳細に腑分けすることが生きられる現実分析には不可欠であるからである。
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