研究概要 |
本研究は,津波災害経験の乏しい発展途上国を主な対象として,効果的な津波防災対策を実施する際に必要な総合的な津波防災戦略のモデルを提案するとともに,いくつかの発展途上国への具体的な導入考えた場合の課題を整理した上で,提案する戦略モデルの有効性を検証することである. 多目的海洋観測ブイの試作機が開発され,小型ブイによる津波モニタリングの可能性が確認された.ブイとその設置にかかる費用も,宿泊料への1~2%の上乗せ料金やTsunami Taxの導入により,カバーできる範囲に収められる見通しもたった.技術的にも,ブイは,地元漁協によって設置可能であり,沿岸地域産業主導のシステムの維持の目途もたった. 開発されたブイの配置の最適化についても,津波シミュレーションに基づき検討し,効果的な配置により,人的被害軽減効果を期待できることが確認できた.また,近年の津波観測事例を通じて,海山による津波の散乱や遠地津波の観測上問題となる最大波の遅延の問題に着目し,遅延が発生する津波シナリオも特定された. 津波シミュレーションと避難シミュレーションの組み合わせにより,想定される様々な津波シナリオに対して,最適な避難施設の配置決定および避難誘導手法を開発した.スマトラ地震津波被災地の建物被害の調査結果から,避難施設が持つべき耐力も明らかとなった. 津波に対する住民の意識と避難行動の意向を調査した結果,津波に対する浸水リスクについては,予想される浸水程度に応じて段階的に認知していることが顕著に見られる一方,津波時に避難の意思決定を行うタイミングは,予想される浸水程度との関連が希薄である,など,津波避難に関するリスクコミュニケーションにおいて,留意すべき点が明らかとなった. 以上、本研究で得られた成果から、多目的海洋観測ブイを用いることで津波を探知し,警報を出し,住民を避難させるに至るまでの全プロセスを総合的に支援するシステムを長期的に維持するフレームワークの基盤が整ったと考えている.
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