本研究の目的は超長大水系フブスグルーバイカルーエニセイ水系における流域環境の変化による物質動態と生態の遷移を明らかにすることにある。この水系は全長4500km超に及ぶものである。したがって、短期間で全域を調査することは困難であるため、水系を4つの地域に分けて4年間をかけて調査することにしている。研究第一年度に立案した調査計画に従って、本年度は水系全体の最下流域にあたるエニセイ川のドゥディンカーソポチュナヤ・カルガ間の調査を行った。2008年8月3日から25日にかけてロシアに渡航し、上記流域、約410kmの区間を調査した。合計7地点で、カレポブスクとソポチュナヤ・カルガの2地点では水深別に生物・物理・化学の総合観測を行った。 最下流のソポチュナヤ・カルガの水深7mの電気伝導度は表面水の約1.3倍の値を示したが、その他のサンプルではほぼ同一の電気伝導度であり、海水の混入は全く見られなかった。一方、水色は下流になるにつれ褐色を増した。このことは下流域のツンドラ地帯の湿地域からの腐植物質の流入を示していた。これらのサンプルについて、今後、超高分解能フーリエ変換イオンサイクロトロン(FT-ICR)質量分析などを駆使して有機物組成の解明を行う予定である。 これまでに収集した湖水について、上述のFT-ICR質量分析を行った。その結果、バイカル湖水試料では2200〜3500の質量イオンピークが検出され、リグニン様物質や脂質・タンパク質が主要な成分であることが明らかになった。
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