ボルネオ島には、土壌の酸性度に応じて鉄・アルミニウムが溶脱する過程(ポドゾル化)やケイ素が溶脱する過程(オキシゾル化)が広く見られることから、リン制限のかかっている生態系が広く存在すると予測される。この研究では、リン制限のかかった熱帯降雨林において、土壌リンの存在形態(画分)とその濃度を明らかにし、さらに低リン土壌に対する植物の適応をリン無機化、吸収、再吸収、光合成におけるリン利用効率の側面から明らかにする。最終年度の当年度は、土壌リン可給性低下に対する主要樹種の生理生態学的な適応機構を中心に解明した。これまでマレーシア・サバ州のヒース林等に設置した試験区において、優占種の実生(樹高1m未満)の根系を掘り取り、細根長や形態を記録した。さらに、細根の酸性リン酸分解酵素活性を種毎に計測し、樹種間比較を行った。土壌リン可給性と細根の酸性リン酸分解酵素活性の関係を求めた。さらに、樹木のリン利用効率について、再吸収効率とリンの可給性の観点から解析を行った。マレーシア及びインドネシアにおいて、リン可給性の異なる複数の試験区から、主要樹種について生葉とリターを採取し、乾燥後に日本に持ち帰った。実験室で乾燥葉を灰化し、リン及びその他元素の濃度を定量し、生葉とリターの濃度差からリン再吸収効率を求めた。野外では測器を用い、各森林の葉面積指数を測定し、それに葉面積当りの重量(LMA)と平均リン濃度を掛けて単位面積当たりの葉群リン現存量を推定し、純一次生産をリン量で除して、林分レベルの光合成リン利用効率を求めた。林分レベルのリン利用効率上昇への光合成リン利用効率とリン再吸収効率の寄与率を明らかにした。
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