世界最高の高度をもつヒマラヤ山脈では、山麓は東南アジアに続く熱帯・亜熱帯系の植物相をもつが、中腹には日本とも関連のある植物相が発達し、植物地理学上日華区系に含められる。しかし、高山帯の植物相はそれらとは明らかに異質であり、最近の研究ではヒマラヤ・中国植物区系区として中国南西部やチベット東部地域とともに一区系として扱う見解が広く支持を得ている。本研究では、ヒマラヤ・中国西部の地区(雲南・四川・チベット・青海各地)を中心にそれぞれの植物相を実地に調査して、第一にそれぞれの地域の植物相の多様性について分類学的研究をおこなう。次にその結果を分子遺伝学および細胞遺伝学の分析結果とともに地域間で比較することでヒマラヤと中国西部高地地区とユーラシア温帯地域の植物相の類縁関係をその主要な構成属での種間・グループ間の系統関係から推定する。さらにヒマラヤ高山帯植物相の起源とその発達過程とについて生物地理学的に考察することを主たる目的とする。また、並行しておこなわれるヒマラヤ・中国西部高地諸地域の植物多様性調査による標本の収集も目的とする。
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