本研究は国際極年(IPY)2007-2008 の中核研究計画として承認されているMERGE(Microbiological & ; Ecological Responsesto Global Environmental Changes in PolarRegions)の具体的実行プランである。IPY認定計画110件のうち、日本主導は唯2 件、その一つがMERGEである(代表・長沼毅)。本研究課題は、MERGEの中心的プログラムとして、IPY2007-2008をカバーする足掛け4年度(2006年11月~2010年3月)にわたる南北両極の生態・多様性調査を目的とする。これにより、3つのMERGE主要テーマ「多様性と生物地理」、「食物網と生態系進化」、「氷河生物相における生物・化学・物理過程のリンク」に関する重要な知見が得られる。 (1) 「多様性と生物地理」 : 基礎的手法とともに、個々の生物種のゲノム解析や環境ゲノム網羅解析(メタゲノム)などの先端的手法を用いて、極域の湖沼・氷河生態系に生息する生物種、群集構造、分布、機能などを明らかにし、極域微生物の多様性と系統分類を探る。 (2) 「食物網と生態系進化」 : 極域における生物間相互作用や個々の生物種の役割を解明する。他所に比べて極域の食物連鎖は構造(構成する生物種とその相互関係)が単純である分、気候変動に鋭敏・脆弱である。湖底堆積物中のケイ藻殻や生化学マーカー、鉱物記録などの解析を通して、極域の古環境変動が古生物相(多様性と系統)の変遷に及ぼした影響を再現し、将来の影響予測(温故知新)に資するデータを取得する。また、微生物活動に由来する地球温暖化ガス(CO_2、CH_4、N_2Oなど)や寒冷化ガス(DMSなど)の生成・消費について極域での実態を体系的に評価する。 (3) 「氷河生物相における生物・化学・物理過程のリンク」 : 氷河上に発達する特殊な微小孔(クリオコナイトホール cryoconitehole)や融雪氷水路などにおける微生物相の多様性と生物地球化学プロセス、特に炭素・窒素・リンの循環おける微生物の役割と、それらの物質循環の変動が微生物活動に及ぼす影響について体系的に調査し、研究分担者(幸島司郎)がこれまでに展開してきた先駆的研究をモデルにし、世界的な共通プロトコル(調査上の決まり事)を作成する。
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