研究概要 |
フィリピンにおいては、1983年以降麻痺性貝毒による中毒事件が発生しているが、1999年以降は減少傾向にあり、原因種Pyrodinium bahamense の発生量もかなり減少していた。しかし2006年にネグロス島のシアトンとルソン島のソルソゴン湾において中毒事件が発生し、後者ではその後も毎年発生をみている。そこで同種の培養株をこれら両海域、およびこれまでに同種の発生の知られているルソン島のマシンロック湾、マスパテ島のミラグロス、ミンダナオ島のバリテ湾から得られた海底堆積物を材料に作成を試み、一部すでに成功している。現在、これらの培養株の毒組成および成長生理学的特性に関する実験を実施中である。 また、フィリピン タクロバンにおいて2006年12月から2008年5月まで少なくとも月1回の有毒種のモニタリング調査を実施するとともに、二枚貝類のSpondylusとPerna を用いて毒化の有無を把握するため垂下飼育実験を行った。同海域ではP. bahamenseが過去に発生していたが、本調査期間中には顕著な増殖は観察されなかった。記憶喪失性貝毒の原因物質であるドゥモイ酸を産生することが報告されている2種(P. psuedodelicatissima, P. pungens)を含むPseudo-nitzschiaが少なくとも5種、一年を通じて発生していることが明らかになった。また、垂下実験では微量ではあるがドゥモイ酸が検出され、貝への毒蓄積の可能性が示唆された。 ベトナムでは二枚貝Spondylusから多量のドゥモイ酸が確認され、現場調査によりその原因種としてP. cacianthaがもっとも可能性の高い種として推定されたが、最終的に断定するには至らなかった。
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