研究概要 |
本研究課題におけるアルゴリズム側からは,本年度は,量子状態識別問題の基本的性質を研究した.一次独立性と直交性は共に量子状態識別問題の重要な性質であり,高い直交性から一次独立性が自動的に示唆されることを示した.これにより直交性の高い量子状態問では非曖昧測定などの良い量子測定が設計可能であることが明らかにした.対話証明側からは,今年度も引き続き証明者間の共有エンタングルメントの効果の研究を行った.多証明者対話型証明は確率的検査可能証明の基礎モデルであり,多証明者対話型証明の量子版として,検証者は古典のままで証明者のみ量子操作ができるモデル(MIP*)と,検証者も量子であるモデル(QMIP)の2種類が存在する.計算量クラスPSPACEやNEXPに対するMIP*プロトコルを構成し,証明者間の共有エンタングルメントを用いた不正攻撃のより強い限界を与えた.証明者の事前エンタングルメントの有効活用性も初めて示し,多くの興味深いQMIPプロトコルを構成し,QMIPの重要な諸性質を示すことに成功した.暗号理論側の研究として,量子ビット委託方式の新たな可能性を検討した。計算量理論的なビット委託方式として量子一方向性置換に基づく方式の存在が知られているが,その量子一方向性置換は候補さえ存在していなかった特殊な型の量子一方向性関数(その候補は存在)を元に統計的束縛性を持つ非対話形式の量子ビット委託方式の構成に成功した.最後に新しい方向性として,量子ネットワーク符号の可能性の研究を行った.未知古典情報をネットワーク上で効率的に伝送する方法としてnetwork codingという技法の研究が近年盛んであり,未知量子状態について,量子ネットワークのみの利用では古典の場合のように効率的転送の不可能性が示されている。古典ネットワークの補助的利用により,量子ネットワーク上でも未知量子状態の完全伝送が効率的に行えること一を示した.これはquantum network codingの道を拓くものとして期待される.
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