研究概要 |
本研究は,本研究代表者らの提案したUSCI法(Unit-subduced-cycle-index approach)に基づいて,立体化学用語の再編による化合物立体化学データベースのシステムを構築することを目的としている.まず,立体化学の基礎固めから始め,この一年間で次に列挙する項目を検討してきた.(1)立体化学に関する情報をコンピューターで取り扱えるように,立体化学や立体異性の理論を数学的に再構築すること,(2)再構築した厳密な理論にもとついて,実験化学者にもわかりやすい直感的な表現方法を編み出すこと,(3)これらの方法を,コンピューターアルゴリズムとして確立すること.その上で,立体化学の情報を含んだ有機反応データベースの検索手段としての有効性を確かめることを目的としてきた. このうち,(1)に関しては,RS立体異性体の概念をステレオイソグラムによって考察することにより,従来混乱を極めていたプロキラリティとプロステレオジェニシティの関係について,最終的な決着を付けることができた.化学者に受け入れられるようにするには,さらに若干の補足が必要なので,現在補強をおこなっているところである. また,(2)に関しては,マンダラ概念を開発し,USCI法を図形的なアプローチで理解する方法を考案することができた.マンダラ概念は有力な方法であるので,モノグラフとしてまとめ,2007年前半には刊行の予定である(Shinsaku Fujita, "Diagrammatical Approach to Molecular Symmetry and Enumeration of Stereoisomers", Mathematical Chemistry Mornographs Series IV, Kragujevac, 2007 in press). さらに(3)に関しては,USCI法よりも情報が少ないが,簡便な数え上げ法としてプロリガンド法を新しく開発し,その一般的な展開を図っている.この方法を,モノ置換アルカンおよびアルカンの個数を求めるのに応用して,興味深い結果を得ている.モノ置換アルカンの数え上げの際に,再帰的な繰り返し計算のアルゴリズムを3種類見出しMapleおよびMathematicaによるプログラミングをおこなった.今後は,個数だけでなく,実際に描画できるところまで研究を進めたい.プロリガンド法の簡便さにより,この方法を応用して広範な数え上げが可能であることがわかったので,モノ置換アルカンやアルカンをいろいろな場合に類別して,さらに詳細に数え上げをおこなう作業に集中した.このため,当初予定していたUSCI法に必要なマーク表・USCI-CF表などの整備については着手できなかった.今後の課題としたい.
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