研究概要 |
本年度は交付申請書に記載した計画に従い研究を実施し,以下の成果を得た.(1)昨年度までに開発した影システムをワークショップなどの場づくりの現場で運用する際に必要となる要件(現場の状況に応じたシステム構成など)や問題点等について調査し,これをもとに,様々なフィールドへの対応が可能な影システムの開発を行った.とくに,サーモカメラと距離画像カメラを組み合わせた影生成アルゴリズムを開発し,温度環境の変動にシステムを柔軟に対応させることを実現した.そして本システムを用いて,屋外の2箇所間をつなぐ運用試験を行い,異なる集団間において出会いの場の創出を支援できる見通しを得た.(2)身体と影との存在的な非分離性に起因して,影が場の創出メディアとして働くと考え,歩行速度に比例して傾く自身の影像を身体から分離せずに足元から提示する場合(以下,身影)と,足元からではなくスクリーン中に全身の影像を提示する場合(以下,シルエット)を比較する実験を行った.その結果,影に対して,身体が反応するまでの時間が,身影の方がシルエットに比べ100[ms]程度早いことが見出され,このことから身体には影に対して無意識的に反応する働きと,意識的に反応する働きの二種類の異なる働きが存在すること,さらには前者が場の創出に関わる可能性があることを,時間遅れ影による別の実験結果などもあわせて考察した.(3)研究期間(3年間)に得られた成果をもとに,影は身体の存在的表現と機能的表現の二つの異なる働きを担っており,これらの循環的なダイナミクスによって共存在的な表現の場が創出されることについて考察し,出会いの場の統合原理やコミュニティ支援に向けた共存在の場(家)の設計手法などを総合的に検討した.また,出会いの場の創出には,表現のズレにより生じると推察される気づきが重要な役割を担っており,影身はその有効な支援メディアになることもあわせて示した.
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