研究概要 |
本研究は,触地図のような指先で感じる2次元的な触覚ではなく,あたかも白杖で路上に潜むランドマークを探すような3次元的な力覚を使って,視覚障害者の歩行練習がより効果的になるような認知地図(メンタルマップ)の形成を支援することを目的としている。これが,我々が目標とする力覚提示デバイスを用いた経路情報獲得手段であり,力覚を感じる地図(力覚地図)と呼んでいる新たな経路情報表現である。この力覚地図と,既存の音声地図や触地図の長所とを合わせて,計算機上の仮想経路移動と実際の経路歩行を結びつけて訓練を行うシステムが,視覚障害者のための歩行支援シミュレータである。 本年度は,力覚デバイスを用いた室内歩行支援プログラムのプロトタイプを提案した。そのプログラムの動作は,最初に,テキストファイルで記述された歩行場所のレイアウトを力覚デバイスが認識できる3Dグラフィックスに変換する。次に,この力覚を感じる3Dレイアウトモデルを使って,力覚デバイスのスタイラスを擬似白杖とみなして,室内を確認しながら擬似歩行を行なうことができる。これにより,力覚デバイスのスタイラスを通して,利用者は床面を感じながら移動し,壁や家具の触面反力や材質を感じることで,その存在が認識できる。また,視覚障害者が力覚地図上のランドマークを探す過程で,歩行空間の認知地図の形成が自然に身につくことが確認できた。我々のシステムの利点は,これまでの触地図や音声地図よりも,実際の歩行に近い練習を繰り返し安全に行えることにある。
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