研究概要 |
本年度は、大規模数値計算および理論解析の両面から研究を進めた.理論解析には、発火タイミングを自然に表現でき、本質を捉えた解析的に取り扱いやすい簡単な数理モデルが望ましいが、一方では神経系はシナプスの電気的相互作用以外に多様な神経伝達物質などを介しても神経活動を修飾している一種の化学装置であるとも言える。そのような点を考慮して数理モデルを構成する際に問題となるのは、現実の系はカルシウムイオン等が複雑に相互作用している非線形力学系と見なせ、しばしばダイナミクスの本質を捉えるのが困難であり、結果としてネットワークレベルの本質的な現象の理解の障壁になっている点である。しかしながら、近年の非平衡物理学や非線形力学の発展により、複雑な力学系から本質を捉えた簡単な力学系へ自由度を逓減する幾つかの理論が提唱されている。そこで、複雑な非線形ネットワークのダイナミクスを弱非線形解析の理論を用いてより簡単で解析可能な力学系に簡略化することで、同期などの時空間構造が重要である系のネットワークの性質を理論的に解析した。具体的には、タイミングを表現する状態変数である位相φによりニューロンのダイナミクスを記述するphase dynamicsと呼ばれる手法と,力学系的観点から解析を行った.また、この理論枠組みは、周期性のある系には一般的に適応可能であり、結果はきわめて一般性があることも魅力である。ただし、複雑な系は周期性のないカオス等の性質を示す場合もあり、そのような場合にも手法を拡張する試みは必要である。この京も含めて本手法を発展させ研究を進めていく為の準備も行った.
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