研究概要 |
本年度はアルツハイマー病及び正常圧水頭症により特異な人物誤認を呈した症例を報告した(Abe, et. al.,2007)。系統的な神経心理学的検査により、この症例では近親者に限局した人物誤認と、自分の今いる建物など本来一つのものが二つあると考える重複記憶錯誤が主な症状であることが明らかとなった。また人物認知に関する検査からは、名前・顔・人物の意味情報の想起が可能であるにも関わらず、家族関係の想起に特異的な障害をきたしている可能性を明らかにした。さらに画像所見からは、これらの症状が右半球を中心とする脳機能の低下によって引き起こされる可能性が示唆された。 また、アルツハイマー病患者群における虚再認についての神経心理学的研究を行った。アルツハイマー病では鮮明な記憶が想起できないため曖昧な記憶に依拠するという先行研究の知見に一致して、患者群では健常対照群と比べ、詳細な記憶を想起することで虚再認を防ぐプロセスが障害されている可能性が示された。また、今回使用した実験課題は健常者を対象として行うfMRI実験にも応用可能なものであり、記憶錯誤の神経基盤を解明する上で有用なパラダイムを確立することができた。 本年度はこの他にも、prospective memoryを必要とする認知課題における前頭前野の活動パターンについての研究成果を発表した(Okuda et al.,2007)。また、健常被験者を対象として行われた記憶についての脳機能画像法の研究成果-特に内側側頭葉における海馬の機能についての知見-をまとめ、その役割について考察した(藤井・鈴木,2008)。
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