研究概要 |
本年度は健常被験者を対象に行った虚再認と意図的な嘘の神経基盤に関する研究成果を報告した(Abe et al 2008)。主な知見として、まず意図的に嘘をついた場合には外側の前頭前野の賦活が認められ、これまでの先行研究の知見とも合致するものであった。次に虚再認に比べ正確に再認できた場合には、聴覚連合野の賦活が認められた。この結果は実際に知覚入力を経て学習した単語の再認の際には(本研究では機能画像撮像中の再認課題に先だって行われた記銘課題において、聴覚呈示による単語リストの学習を行っている)、聴覚関連領域の再活動が関与している可能性を示唆している。最後に、虚再認と嘘に関わる神経活動の直接比較を行った結果、嘘に関連して前頭前野の賦活が認められ、虚再認に関連して内側側頭葉(右海馬前方)の賦活が認められた。後者の内側側頭葉の活動に関しては、この領域が記憶の客観的な正確性だけではなく、主観的な判断にも関係していることを示唆している。 本年度はまた、前脳基底部とエピソード記憶に関するこれまでの先行研究、及び研究代表者自身の研究成果をまとめ、著書として発表した(Fujii,2008)。前脳基底部がエピソード記憶の想起に、特に時間的文脈を元に記憶内容を想起したり、想起した記憶内容が特定の時間的文脈に適合するかどうかを判断する上で重要な役割を果たしている可能性を提示している。この他にも、機能的磁気共鳴画像法に関する総説(鈴木、藤井2008)、臨床的な記憶障害に関する総説を発表した(菊池、藤井2008)。
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