研究概要 |
本研究は,成人を対象に,顔,表情,視線,ジェスチャーなどの多様な社会信号から他者の心的状態を推測し,それを適切な応答・表出反応に結びつける社会情報処理の心理基盤・神経基盤を実証的に明らかにすることを目的としている.平成19年度は,3つの行動実験および1つのfMRI実験を行った。主要な結果は以下のとおりである。(1)表情と視線向き・顔向きを操作した静止画表情の認識実験の結果、表情に対する感情認知や主観的感情反応は、知覚している人物の視線向き、顔向きによる影響を受けること、顔向きよりも視線向きの影響のほうが大きいこと、影響の仕方は感情カテゴリーにより異なることが明らかになった。(2)視線・表情手がかりによる注意シフトに状態不安が及ぼす影響に関する実験の結果、状態不安の高い参加者において、手がかりとなる恐怖表情・視線と一致するターゲットの検出が中性表情よりも素早いこと、恐怖表情・視線による促進効果は、状態不安の強さと相関することが明らかになった。また、(3)顔向きによる注意シフト課題における顔向き手がかりの有効性が人物印象(好悪)の形成に及ぼす影響に関する実験を行った結果、ターゲットの出現位置と一致する手がかりとなった人物の顔の好意度が、統制条件の人物の顔の好意度よりも高くなることが明らかになった。fMRI研究として(4)中性から恐怖、あるいは中性から幸福表情へ変化する表情動画像(順方向)と、その逆方向に変化する動画像の知覚時の脳活動分析を13名の参加者について行った結果、恐怖、幸福いずれの表情においても、順方向で変化する表情の知覚時の扁桃体の活動が、逆方向への変化表情に比べて有意に高くなることが明らかになった.
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