研究概要 |
比較的難しい認知活動を行っている時、目をそらしたり目を瞑ったりする行動は"gaze aversion(GA)"呼ばれており、考えることに集中するために外界からの刺激を遮断する行為と推測されている。小児におけるGAの研究は少ないが、我々は、GAの出現は脳と心の発達において重要なプロセス(認知活動)の始まりを意味していると考え、その仮説を検証するために成人と小児を対象に眼球運動計測装置を用いて思考中の眼の動きを解析し、また近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)を用いてGAに関連して活動する脳領域の検出を試みた。 成人ではGAに個人特有のパターンが認められ、多くの揚合課題の種類に関係なく視線を向ける方向(領域)は一定で、半年間のスパンをおいても再現性があることを明らかにし、また、一点を注視したまま全ての課題に対してGAを全く伴わない被験者も存在し、GAが単に外界からの刺激遮断行為ではないことを見出した。一方、10歳未満の小児ではGAに一定のパターンが認められず,注視点から大きく離れ解析対象視野外の複数領域に視線を向け、成人と同じパターンを示し出すのは10歳ころであることを明らかにした。成人では、GA出現に一致して、情報探索や注意のシフトに関連する両側または一側の腹外側前頭前野、前運動野で活動が増加することを突き止めた。以上の結果から、GAはglobal workspaceと呼ばれる認知活動を行うスペースへのアクセスと、そこでの情報探索や思考のリセットを反映しており、成人ではそのようなスペースが確立しており、すみやかにアクセスすることができるが、小児では未完成でアクセス先が定まらないため、より広い範囲に視線を向けるのではないかと推測された。本研究結果は、10歳ころから成人と同じような認知活動を行うようになることを示唆しており、GAのパターンは認知機能発達の指標になりうると考える。
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