神経系などの分泌性細胞では活動電位やホルモンなどにより、細胞内カルシウムイオン濃度は上昇し、それに伴い分泌小胞が放出される。しかしながらこの細胞内カルシウム応答と分泌過程との関連を定量的に調べた研究は少ない。その一因として定量的に細胞内カルシウム濃度上昇と開口放出現象を定量的かつ同時に計測する方法がなかったことが考えられる。 そこで本研究では開口放出現象を定量的に解析することを目指し、分泌小胞をニューロペプチドYと蛍光タンパク質GFPとの融合タンパク質をPC12細胞に遺伝子導入することにより可視化することを試みた。また同時に細胞内Ca濃度変化を計測するために、カルシウム感受性蛍光色素Fura-Redで染色し、蛍光タンパク質からの蛍光とFura-Redからの蛍光を分離して計測するための落射蛍光顕微光学系を構築した。これにより、開口放出の原因である細胞内カルシウム濃度上昇と開口放出を単一細胞において独立に計測することに成功した。またあわせて開口放出を自動的に検出するためのアルゴリズムを考案し、これを計測系に実装した。 細胞内カルシウム濃度上昇から開口放出がおきるまでの平均潜時はおおよそ70秒程度であることが同時計測からわかった。またATP刺激により引き起こされる細胞内カルシウム濃度上昇速度は細胞毎に異なることも判明した。刺激前に存在する分泌小胞数により開放出数を正規化したところ、開口放出と細胞内カルシウム濃度上昇開始時間には負の相関があった。このことは細胞内カルシウム濃度上昇時間が短いほど、多くの小胞が放出されることを示しており、細胞膜付近の急速なカルシウム濃度上昇が開口放出関連タンパク質を活性化させる過程によるものではないかと示唆される。
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