嗅球では、成体においても新しい神経細胞(顆粒細胞)が神経回路に組み込まれている。成体脳ではすでに神経回路が形成されているので、新生神経細胞による神経回路の再構成機構は、既存の神経回路、神経細胞と関連付けて考えていく必要がある。本研究では、マウス嗅球の既存の神経細胞を選択的に除去し、新生神経細胞による神経回路の再構成が既存の神経細胞によって如何なる調節を受けているかを検討した。前年度までに、緑膿菌毒素と抗体分子との融合蛋白(イムノトキシン)の局所注入によって、mGluR2プロモーター下にイムノトキシン受容体を発現するトランスジェニックマウス嗅球のmGluR2陽性顆粒細胞を選択的に除去できること、その2ヶ月後には除去されたmGluR2陽性穎粒細胞がほぼ元通りに回復すること、既存のmGluR2陽性顆粒細胞を除去した部位では新生mGluR2陽性顆粒細胞が優先的に組み込まれること、未分化神経細胞の移植実験によって除去部位では移植細胞が多くの樹状突起を伸ばし多くのシナプス構造を形成していること、を見出した。 本年度は、新生細胞の組み込みをさらに詳しく解析し、 ・既存の細胞を除去しない部位ではmGluR2陽性顆粒細胞の組み込みは促進されず、組み込みの増加は細胞を除去した領域に限局しておこる ・既存のmGluR2陽性顆粒細胞は嗅球の浅層に分布しており、これらを除去すると新生顆粒細胞も浅層まで移動して組み込まれる ・Calretinin陽性細胞はその多くがmGluR2陽性であり、Calretinin陽性細胞の除去によってより多くの新生Calretinin陽性細胞が組み込まれる 以上の点を明らかにした。これらのことから、新生顆粒細胞は、既存の神経細胞の除去による局所神経回路の変化を正確に検知し、神経回路を元通りに修復する能力があると考えられた。
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