研究概要 |
神経細胞は1本の軸索と複数の樹状突起を形成し極性を獲得する。神経極性は、神経細胞の基本的な機能であるシグナルの入出力や統合に重要な役割を果たす。最近の数多くの報告から、PI 3-kinaseやPAR3/6、GSK-3ベータ、CRMP-2といった分子群の細胞内におけるシグナルの非対称性が培養海馬神経細胞の極性を形成することが明らかとなりつつある。しかし、このようなシグナルの細胞内における非対称性がどのような分子メカニズムで生じるかという問題は大きな謎である。最近、我々は新規神経極性形成タンパク質Shootinlを見出した。Shootinlは極性形成とともに神経細胞内で非対称に軸索に濃縮する。本研究では、Shootinlの機能解析を行い、極性形成過程における非対称シグナルの形成のメカニズムを解明する。前年度までの研究から、Shootinlは、Waveと呼ばれる成長円錐様の構造体とともに、神経突起内で細胞体から突起先端に向かって塊となって輸送され、Shootinlの非対称シグナルの形成に重要な役割を果たすことが示唆されている(J. Cell Biol. 175, 147-157, 2006)。 本年度は、Wave内のShootinlの細胞内1分子計測を行った。その結果、Shootinl分子がWave内のアクチンフィラメントの求心的な移動に一致して移動し、その移動はアクチンフィラメントの重合をサイトカラシンで阻害することによって抑制されることがわかった。以上の結果から、ShootinlがWave内のアクチンフィラメントと相互作用することによって輸送されると結論された。さらに、Shootinlの神経突起内における拡散をKaede-Shootinlを用いて計測した。その結果、神経突起先端に濃縮したShootinlが拡散によって細胞体に戻ることおよび長い神経突起ほどShootinlが濃縮しやすいことが明らかとなった。これは、我々が提唱しているShootinlの非対称シグナル形成のポジティヴフィードバックモデル(J. Cell Biol. 175, 147-157, 2006)を強く支持する。また、Shootinlの脳内機能の解析のためにノックアウトマウスの作成に成功し、現在その表現型を解析中である。
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