大脳皮質連合野におけるギャップ結合ネットワークの解析を目的として、生理学的知見の蓄積があるネコ視覚関連皮質を研究対象とし、以前に私が18野でギャップ結合の存在を証明したパルブアルブミン(PV)含有GABAニューロンが、他の領野でどのようなギャップ結合ネットワークを形成しているかという点を検討した。17野、18野、19野、AMLS野、PMLS野のいずれにおいても、PVニューロンの樹状突起間にギャップ結合が豊富に存在することを形態学的に証明した。さらに2層から6層の各層で樹状突起間ギャップ結合が認められた。他方どの領野でもPVニューロンが細胞体上にPV陽性GABA終末を密に受ける特徴を見いだした。以上から、PVニューロンは1次視覚野から視覚連合野を通じて(1)樹状突起間のギャップ結合と(2)相互の細胞体を標的とする抑制性シナプス結合からなる二重のネットワークを形成していることを見いだした。PVニューロンは大脳皮質抑制性神経細胞の中核的役割を担い、またギャップ結合と相互抑制結合はそれぞれ神経活動の同期性とリズム形成を促進すると考えられていることから、今回明らかにした二重のネットワークの普遍的存在は、それが大脳皮質神経回路の作動原理に本質的な意味を持っことを強く示唆する。しかしながらギャップ結合の密度は領野・層区分ごとに多様性を示した。このことはギャップ結合ネットワークが皮質全体に一様な網の目のように広がっているわけではないという重要な事実を意味する。PVニューロンの樹状突起は領野・層ごとに特徴的な3次元的広がりを示しており、必然的にギャップ結合ネットワークの空間構成もそれに規定される。原理的構成という側面と、各皮質野構造の独自性という両面からギャップ結合ネットワークを理解すべきであることが結論づけられた。大脳皮質と密接な関連を持つ線条体においても詳細な解析により同様の結論を得た。
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