研究概要 |
本研究は聴覚系神経回路網発達過程における神経細胞接着分子NB-2(コンタクチン5)の機能解析を通して、聴覚系神経回路発達・成熟の分子機構を明らかにすることを目的としている。今年度は、Casprファミリーに対する抗体作製と培養細胞系でのNB-2とCasprファミリー分子との共発現系を確立し、NB-2との相互作用の可能性についての検討を行うことを計画した。Caspr2については、以前に作製したウサギポリクローナル抗体を精製して用いると共にマウスモノクローナル抗体を作製した。Caspr4については、以前に作製したウサギポリクローナル抗体を精製して用いた。抗体が未だ作製できていないCaspr1,3については、HAタグとの融合タンパク質を培養細胞にNB-2と共発現させて免疫沈降法を行うことによって相互作用の可能性を調べた。その結果、NB-2はCaspr1,2,3の何れとも免疫沈降されず、Caspr4は培養細胞では発現しなかった。そこで、抗NB-2抗体をカラムに固定し、脳膜画分を用いてアフィニティ・クロマトグラフィーを行ったところ、溶出分画中にCaspr4が検出された。更に膜画分から抗NB-2抗体を用いて免疫沈降したところ、Caspr4を検出することができ、逆に抗Caspr4抗体を用いて免疫沈降した場合にはNB-2を検出することができた。このことから、NB-2はCaspr4と結合している可能性が高く、現在、免疫染色による検討を行っている。一方、NB-2を発現している神経細胞と神経伝達物質との関係を明らかにするため、種々のマーカーとの蛍光二重染色を行った。その結果、NB-2は黒質ではGABA陽性ニューロンでの発現が認められたが、聴覚系ではGABA、又はグリシン陽性ニューロンとはオーバーラップせず、グルタミン酸トランスポーターvGluT1陽性ニューロンと共局在した。これらのことから、今後、聴覚系グルタミン酸作動性ニューロンにおけるNB-2とCaspr4の役割について解析を行うことが必要である。
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