本研究は聴覚系神経回路網発達過程における神経細胞接着分子NB-2(コンタクチン5)の機能解析を通して、聴覚系神経回路発達・成熟の分子機構を明らかにすることを目的としている。 本年度は、抗NB-2抗体と抗vGluT1抗体を用いた蛍光二重染色を行い、聴覚系神経回路の各発達段階での発現を詳細に検討した。NB-2は聴覚系のすべての部位で発現し、特に脳幹(蝸牛神経核、上オリーブ核、下丘)で特に強く発現していた。聴覚系におけるNB-2の発現は生後7日頃に最大となり、その後急速に減少し生後14日にはICを除いて発現が見られなくなった。そこで、NB-2とvGluT1の発現時期を比較し、グルタミン酸陽性ニューロンの発達・成熟とNB-2の発現との関係について検討した。その結果、NB-2の発現が特に強い脳幹においてNB-2とVGLUT1の免疫蛍光シグナルが重なった。NB-2とVGLUT1の発現時期を上オリーブ核で比較した結果、生後直後ではNB-2のみが発現し、聴覚系の発達に従ってVGLUT1が次第に発現し始めた。生後7日になるとNB-2の発現が最大となり、その後NB-2の発現は急速に減少し、生後14日になるとVGLUT1の発現のみが見られた。 また、聴性脳幹反応(ABR)は聴覚系の機能を測定する上で極めて有用である。今年度は、1ケ月齢、3ケ月齢、6ケ月齢のNB-2欠損マウスと野生型マウスをそれぞれ用いて、ABRのI波からV波までの波形解析を行った。刺激頻度を8kHz、12kHz、16、kHz、20kHzの4段階で変化させ、それぞれの周波数における閾値と、I波からV波までの波形出現時間を比較した。その結果、すべての月齢においてNB-2欠損マウスは、低周波数(8kHz、12kHz)におけるABRの4波の出現時間が有意に遅れていた。一方、NB-2欠損マウスと野生型マウスのABRの閾値に有意な差は見られなかった。
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