研究概要 |
本研究は聴覚系神経回路網発達過程における神経細胞接着分子NB-2(コンタクチン5)の機能解析を通して、聴覚系神経回路発達・成熟の分子機構を明らかにすることを目的としている。 本年度は、NB-2遺伝子欠損型マウスと野生型マウスを用いて、腹側蝸牛核(VCN)、上オリーブ核群(SOC)におけるシナプス形成、及びアポトーシスについて比較した。台形体核(MNTB)のcalyx of HeldはVCNのbushy neuronからの終末であり、主要細胞の周囲を包み込むように動物細胞最大のシナプスを形成し、bushy neuronと主要細胞がほぼ1:1に対応している。このため、NB-2のシナプスでの役割を明らかにするためには、NB-2遺伝子欠損型マウスと野生型マウスでcalyx of Heldを比較することが重要であると考えた。出生後6日の野生型マウスでは、ほぼ全ての主要細胞でグルタミン酸作動性シナプスのマーカーであるVGLUT1陽性のcalyx of Heldが認められたが、NB-2欠損型マウスではVGLUT1のシグナルで囲まれていない主要細胞が見られた。次に、MNTBの主要細胞の数を野生型とNB-2欠損型マウスで比較したところ、出生後6日では有意な差は認められなかったが、出生後1か月では、NB-2欠損マウスで有意に主要細胞の数が減少していた。このことから、VCNからMNTBへの神経回路の発達にNB-2が重要な働きをしていることが明らかになった。更に、外側状オリーブ核(LSO)においてもNB-2欠損型マウスの方がVGLUT1陽性のシナプス数が少なかった。このことから、MNTB及びVCNにおいてアポトーシス細胞をCaspase 3による免疫染色を用いてNB-2欠損マウスと野生型マウスで比較したところ、欠損マウスのVCNおよびMNTBでアポトーシス細胞が有意に増加していた。これらのことから、NB-2の欠損によってLSO,MNTBへの神経回路の発達に重大な影響が現れることが明らかになり、LSOへの興奮性入力と抑制性入力のバランスに異常が生じ、周波数依存性にも影響が現れることが考えられた。
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