研究概要 |
両眼視機能を持つ霊長類が、3次元空間をゆっくり動く対象物からの視覚情報を適切に取り込むためには、前額面の視標追跡眼球運動である滑動性眼球運動と、奥行き方向の輻輳開散運動信号の協調が必須である。また、視標追跡眼球運動は、通常、頭部運動を伴って行われるので、前庭眼反射の制御が必要になる。3次元性追跡眼球運動信号は前頭眼野後部領域に再現され、この領域の追跡眼球運動ニューロンは、半規管性前庭眼反射の制御にも関わることが明らかになった。その下降経路に位置する小脳背側虫部には、滑動性眼球運動と半規管性前庭眼反射の制御に関わる視標追跡プルキンエ細胞が報告されている。今年度は、この領域が耳石器性前庭眼反射の制御にどのように関わるかを調べ、前頭眼野後部領域の応答と比較した。訓練したニホンザルを対象として、頭部を固定して左右方向の直線加速度刺激を正弦波状(0.3Hz,10cm/s)に与え、視標追跡に関わる背側虫部プルキンエ細胞を記録した。視標の眼前距離を65,45,25cmの3点に変えて、視標と頭部を同時に動かす前庭眼反射抑制課題と、頭部運動中、視標を3次元空間で固定する前庭固視課題を用いて応答を調べた。背側虫部視標追跡プルキンエ細胞の直線加速度刺激に対する応答は、視標のみを用いた追跡応答の最適方向と良く対応した。前額面に最適方向をもつ背側虫部のプルキンエ細胞のほぼ60%は、耳石器性前庭眼反射抑制課題に応答した。さらに耳石器性前庭固視課題では、結果としての眼球速度に対応した。輻輳開散運動にのみ最適方向をもつ背側虫部プルキンエ細胞は、左右方向の直線加速度刺激には、殆ど応答しなかった。これらの応答は、前頭眼野の視標追跡ニューロン応答と異なった。以上の結果は、耳石器入力下で前頭眼野に再現される視標追跡のための視線運動信号は、主に小脳背側虫部に送られ、そこで視標追跡プルキンエ細胞の応答の最適方向に対応した信号処理がなされることを示唆する。
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