両眼視機能を持つ霊長類が、3次元空間をゆっくり動く視覚対象からの情報を適切に取り込むためには前額面の追跡眼球運動である滑動性眼球運動と、奥行き方向の輻輳開散運動信号の協調が必須である。3次元性追跡眼球運動信号は前頭眼野に再現されている。小脳背側虫部が滑動性眼球運動と半規管性前庭眼反射の制御に関わる。この領域が3次元性追跡眼球運動信号の処理と耳石器性前庭眼反射の制御にどのように関わるかを調べ、前頭眼野応答と比較した。第1の実験として、視標追跡眼球運動に応答した100個の背側虫部プルキンエ細胞の60%は、奥行き方向のみ、あるいは前額面のみに応答し、残りの40%が前額面と奥行き方向の両追跡眼球運動に応答した。さらに輻輳に応答したプルキンエ細胞の方が、開散に応答したプルキンエ細胞よりも有意に多かった。奥行き方向に応答したプルキンエ細胞の73%は眼球運動の開始に先行して応答した。記録領域の化学的不活性化により輻輳眼球運動が障害された。第2の実験として、左右方向の直線加速度刺激を正弦波状に与え、視標の眼前距離を65-25cmに変えて視標追跡に関わるプルキンエ細胞応答を調べた。プルキンエ細胞の直線加速度刺激に対する応答は、視標追跡応答の最適方向と良く対応した。前額面に最適方向をもつプルキンエ細胞のほぼ60%は、前庭眼反射抑制課題に応答した。さらに前庭固視課題では結果としての眼球速度に対応した。輻輳開散運動にのみ最適方向をもつプルキンエ細胞は、左右方向の直線加速度刺激には応答しなかった。これらプルキンエ細胞応答は前頭眼野応答とは、異なった。第1の実験結果は、3次元性信号の個々の成分への分解が小脳背側虫部で始まっていること、第2の実験結果は、耳石器入力下で前頭眼野に再現される視標追跡のための視線運動信号は、主に小脳背側虫部に送られ、そこで視標追跡プルキンエ細胞の応答の最適方向に対応した処理がなされることを示唆する。
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