視細胞・網膜双極細胞・有毛細胞などの感覚ニューロンは緩電位応答を発生し、終末部にはシナプス小胞が多数繋留されたシナプスリボンという構造が観察されることから、シナプスリボンの機能は伝達物質の持続性放出に関与していると仮定されている。この仮説を検討するために、キンギョ網膜から単離したMb1型双極細胞を膜電位固定し、全反射蛍光顕微鏡で終末部の膜直下を蛍光イメージングした。シナプスリボンを蛍光性標識ペプチドで可視化し、Ca2+流入部位を蛍光性Ca2+指示薬で観察したところ、脱分極刺激によるCa2+流入はシナプスリボン直下で生じることが明らかになった。また、伝達物質の開口放出部位を調べるために、FM色素で可視化したシナプス小胞の融合イベントを観察したところ、脱分極刺激を与えると、融合イベントはシナプスリボン直下で一過性に増加するのに対し、シナプスリボンから離れた領域では遅れて増加することが明らかになった。また、プロテインキナーゼCを活性化させると融合イベントはシナプスリボンから離れた領域で顕著に増加することがわかった。シナプス小胞の融合イベントは、シナプスリボン直下でもシナプスリボンから離れた領域でも、集中的に生じていた。Mb1型双極細胞の終末部を電子顕微鏡で観察した結果、シナプスリボン直下のdyadというリボンシナプス以外にも、シナプス小胞が集積し、ポスト側にPSDのある1本のプロセスがのびている「リボン無しシナプス」が見っかり、両者はほぼ同数存在することがわかった。以上の結果から、Mb1型双極細胞からの開口放出は、シナプスリボン直下のアクティブ・ゾーンで一過性に生じ、シナプスリボンの無いアクティブ・ゾーンでは持続性に生じると結論した。双極細胞からの視覚情報は、リボンシナプスで一過性に、リボン無しシナプスで持続性に伝達されることが示唆された。
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