研究概要 |
本研究では,脊椎動物の分節に繰り返して発現するニューロンが如何に機能的に分化し,相互に関係して機能的な回路を構築しているかを理解することを目的とした.具体的には,ゼブラフィッシュの後脳に存在する網様体脊髄路(RS)ニューロンの特異的な興奮性を決定する因子,逃避運動中の活動,逃避運動の発現に必要な感覚入力の形成過程について調べ以下の知見を得た.(1)ゼブラフィッシュのRSニューロンのうち最大の大きさを持つマウスナー(M)細胞は,他のRSニューロンと異なり,単発の活動電位しか発生しない.この特異的な興奮性は受精後90時間以降で獲得される.(2)M細胞の単発発火特性の獲得に対応して,低閾値型カリウムチャネルKv1がM細胞の軸索初節部の膜に表出する.(3)M細胞は聴覚入力による逃避運動において活動し,またその活動がなければ最も早い逃避運動は起こらない.M細胞の隣の分節に存在し,M細胞と形態学的に相同なRSニューロンは,触覚入力による逃避運動で活動し,聴覚入力による逃避運動ではむしろ活動が抑圧される.すなわち,M細胞と相同ニューロンは逃避運動において,相補的な役割を果たしている.(4)M細胞の活動にとって,もっとも重要な入力である聴覚人力の発達について,M細胞や感覚神経にGFPを発現するトランスジェニック・ゼブラフィッシュを活用して,電気生理学的・形態学的に調べた結果,M細胞が音に応答するよりずっと前に,機能的な聴覚回路は形成されていて,内耳の有毛細胞が音による振動を電気信号に変換する過程が,M細胞の聴覚獲得の時期を決めることを見出した.成果の(3)と(4)については2報のJ.Neurosci.に発表した.
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