HIV感染における特徴的な病態として全身におけるCD4陽性細胞数の減少が知られているが、その原因の一つとして、胸腺機能の低下にともなうCD4陽性細胞のde novo産生の抑制が示唆されている。我々は、感染による胸腺内成熟T細胞の破壊だけでなく、未成熟なT細胞の分化増殖障害がde novo産生の抑制に関与している可能性を考え、アカゲザルとSHIVの動物モデルを用い、強毒・弱毒ウイルス感染初期の胸腺内T前駆細胞およびその分化増殖能を比較解析した。強毒SHIV-KS661と弱毒SHIV-#64をアカゲザル6頭に経直腸感染させ、6日、13日、27日目に剖検を行い、採取した胸腺のブロウイルス量の測定およびFACS解析を行った。さらに、胸腺内T前駆細胞(CD3-CD4-CD8-)をソーティングし、デオキシグアノシン処理したマウスの胎児胸腺と共培養(FTOC)を行なうことで、分化増殖能の検討を行った。接種後4週間では、血漿中ウイルスRNA量の動態と血中CD4陽性T細胞の減少は強毒株・弱毒株感染ザルで大きな差は見られなかった。しかし、胸腺組織での感染性ウイルス量とプロウイルス量は強毒株感染ザルの方が弱毒株感染ザルより著しく高かった。また、強毒株感染ザルではCD4陽性細胞だけでなくCD4+CD8+共陽性(DP)細胞の減少が見られたが、弱毒株感染ザルでの減少は見られなかった。さらに、FTOCによる胸腺内T前駆細胞(CD3-CD4-CD8-)の分化増殖能を調べたところ、強毒株感染ザルから感染6日目以降に採取したものは、ほとんどがDP細胞に分化増殖しなかったのに対して、弱毒株感染ザルではいずれもDP細胞にまで分化増殖した。以上の結果から、強毒・弱毒SHIV感染初期において見られた胸腺内の未成熟なT細胞の分化増殖能の差が、その後の病態の進行を反映しているものと考えられた。
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