研究概要 |
近年,微細針を用いた無痛採血の試みが報告されてきている。微細針を用いた無痛採血は蚊の吸血をモデルにされることが多いが,実際の採血方法に利用しているのは微細な針を用いることのみで,蚊の巧みな穿刺機構はまったく応用されていない。本研究ではこのような蚊の吸血針モデルを作製方法の検討を行い,作製した吸血針モデルを用いた多重針による穿刺効果を評価することを目的とした。 蚊の吸血針が柔軟で素材(キチン質)による多重構造を有していることに着目し,しなやかで柔軟なシリカ樹脂製のパイプと金属線からなる三重構造の針を構築した。各針先は市販の採血針と同様に先端を鋭角(30度)に研磨することが穿刺力の低下に不可欠であるが,シリカ樹脂針は研磨材への押し当てにより弾性変形しやすく,鋭角な針先形状の加工が困難であった。そこでシリカ樹脂針全体を凍結用溶液に埋包し,溶液を凍結することで針を固定し弾性変形の抑制を試みた。 冷凍固定したシリカ樹脂針を研磨した結果,多少のバリは残るものの,弾性変形することなく針先の加工が可能であった。作製した複合形態による微細針の穿刺性を評価するため,生体組織に見立てた厚さ0。5mmの弾性薄膜材に対する穿刺実験を行った。その結果,内部針のみでは座屈変形により弾性薄膜の穿刺は不可能であったものの,蚊の穿刺と同様に鞘針を弾性薄膜材に接触後に内部針を送り出すことで,微細な針での穿刺が座屈することなく可能であることが確認できた。 また微細な針先に各種生体成分を計測できるセンサを構築するための手法として,曲面構造を有する樹脂素材上に電極をスパッタリングし,さらに電極上に酵素などの機能性膜を構築する技術を開発し,血中成分の一つであるグルコースの計測が可能であることを確認した。
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