本研究の目的は、研究代表者らが既に開発済みの「光電子増倍管(PMT)内部ゲート法」を併用した、サブピコ秒の分解時間を有する新規な蛍光寿命測定システムを構築することと、それを臨床組織診断に応用することである。原理的に従来の手法と単純比較して数百倍以上の感度が得られる。本システムのキーエレメントは、2台のモードロックレーザを用いて、カーゲートもしくは非線形結晶による第二高調波発生によって非同期サンプリングを行い、ボックスカー積分器仕様の装置に仕上げる点にある。これまでのところ、安定かつ再現性の高い結果が得られているとは必ずしも言えない状況である。しかし、周辺技術は既に十分実用のレベルに達しており、今後、励起用レーザに再生増幅器を接続することによって、当初の目的を達成する予定である。次に、生体関連物質の測定に関しては、顕微分光によって魚鱗(鯛)の蛍光寿命が天然と養殖魚で差異があることを見出した。また、測定部位によっても蛍光寿命値に差異があることも確認した。今後は血管、腫瘍組織の試料に対して詳細な測定を行う予定である。また、研究代表者が提案している「フーリエ変換型蛍光寿命計」において、周波数帯域外挿の新しいアルゴリズムを完成させ、実験結果とともに論文として発表した。さらに帯域制限のみならず時間遅延がある場合のデコンボリューション処理手法を見出し、論文としてまとめている段階である。本処理手法を発展させれば、例えば光電子増倍管の応答速度の波長依存性などをも考慮した蛍光寿命減衰波形の導出が行える。提案装置を完成させ、これのデータ処理手法を組み合わせることにより、腫瘍診断への応用研究に移行する予定である。
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