研究概要 |
(1)動脈硬化初期における単球-内皮細胞相互作用の解析 動脈硬化病巣では血管平滑筋細胞の形質変換(脱分化;収縮型→合成型)が起こり,プラーク形成に寄与することが知られている.我々は,ヒト冠動脈血管平滑筋細胞の培養条件をコントロールすることにより,合成型,収縮型の細胞を維持し,それらの物性の違いについて検討した.細胞の物理的硬さ(弾性率)の定量評価が可能な原子間力顕微鏡を用いた計測では,合成型の細胞は収縮型に比べて有意に軟らかく),収縮型の細胞にIL-1β刺激を加えると合成型の如くに軟らかくなった.収縮型ではalpha smooth muscle actinの発現が豊富でstress fiberが非常に発達しているのに対し,合成型では細胞質全体に弱く発現しており,このことが前述の硬さの違いに影響していると考えられる.IL-1β刺激による細胞の軟化は,動脈硬化病巣において炎症性メディエーターが脱分化を引き起こす可能性を示唆している.現在,両細胞の遊走能の検討,及びIL-1β刺激による脱分化プロセスの詳細について検討中である. (2)運動と食餌制限の動脈硬化予防効果 血圧、血中コレステロール、NO、スーパーオキサイドやスーパーオキサイド消去酵素(SOD)の活性に注目し、運動負荷の有無による各ファクターの変化を評価した。運動により、体重、血中コレステロールなど、いくつかの動脈硬化リスク項目は減少傾向を示した。運動負荷期間8週のラットにおいて、肝臓のスーパーオキサイド活性が著しく上昇した。これに対し、血中ではNOの増加が認められており、それにより血圧の上昇が抑制されていると考えられる。SODについては、早期の活性上昇は認められたが、慢性的な運動負荷により活性の増加は認められなくなった。以上の結果より、運動により動脈硬化のリスクは軽減でき、同時に運動は生体のレドックス機構にダイナミックに影響を与えることが示唆された。
|