研究概要 |
我が国では世界に類を見ない速さで人口構造の高齢化が進み,QOLの維持のために,健康寿命の延伸が社会的に重視されつつある.そして,脳卒中,加齢や疾病を契機とする廃用症候群,スポーツ活動やリウマチによる関節障害等々,運動器に関わる様々な障害予防が問われている.そのため,在宅や施設などで,いつでもどこでも,安全かつ手軽にリハビリや褥瘡予防を支援する関節可動域訓練システムへの期待は大きい.本背景のもと,前年度に続き,日常の生活環境や身体機能との親和性に配慮した関節可動域訓練システムの設計指針を得るため,高齢者の身体特性や理学療法の徒手動作などを生体計測で多角的に調べる基礎的研究を行った.転倒リスクの高い虚弱高齢者の下肢筋力(足趾力と膝間力)は健康高齢者と比較して有意な低下(約2割)が認められ,理学療法士の徒手訓練時においては,足趾関節の屈伸運動に必要な外力と最大可動域は屈曲と伸展で異なり,個人差も大きい(約2倍)ことがわかった.次に,これらの基礎データを参考にして,水素吸蔵合金とラミネートフィルム材を利用したコンパクトで伸縮性に優れる足趾関節の他動運動システムを試作および評価した.その結果,素材の可僥性とアクチュエータの拮抗的配置により,個人差のある足趾形状や可動範囲にも柔軟に対応でき,また,褥瘡予防の皮下組織の血行促進も可能であることがわかった.ただし,動作が伸縮ベローズの座屈効果により時々阻害されることがあり,円滑な制御に向けた今後の課題となった.エネルギー蓄積型力覚提示機構の検討も行った.さらに,改良研究として,電気エネルギーに頼らず太陽光や家庭廃熱などで駆動する省エネの在宅向け駆動機構の合金組成を考案し,周辺技術に関しては水素バリア性と柔軟性を備える新しい特殊樹脂材の技術調査を積極的に進め,水素吸蔵合金を基盤とするソフトアクチュエータの新システム構築に向けた展望を得た.
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