視覚障害者の音源定位特性を正確に測るための手法の開発と評価を行った。実験は半無響暗室で行った。被験者は6名の視覚障害者で、内訳は全盲者が2名、弱視者が4名であった。被験者が音源位置を指示するために、3つの方法を用いた。1つは音源方向に顔のみを向ける顔向け法で、3次元位置計測システムを用いて頭部の回転を測定した。2つ目の方法は、回転いす上で音源に胴体を向ける体幹向け法であり、回転角度は光学的に計測した。3つ目の方法は、固定椅子に着座した被験者が、前方水平に中心が被験者の中心と一致するように置かれた180度の分度器の5度間隔の突起を、手指により選択指示する分度器法とした。音源には合計7個のスピーカーを用い、被験者の着座位置の前方2mにおいて0度、±20度、±40度、±80度になるように円弧状に設置した。試験音には、1.0kHzの純音を用い、持続時間は200msとし、音量はスピーカーの前方2mで62dB(A特性)になるよう設定した。試験音の提示は、何れか1個のスピーカーをランダムに選び、同一試験音を時間差(800ms)を設けて2回吹鳴させた。被験者は試験音の呈示後、直ちに音源方向を指すように指示した。1人1指示方法あたり28試行行った。本研究の結果、いずれの指示方法においても、正面から左右への誤差は概ね対称的であることが認められた。また、いずれの方法もスピーカー角度±80度では過小評価傾向を示すことが認められた。正面付近(-40度から+40度の範囲)で最も精度が高かったのは体幹向け法で、周辺部(-80度と+80度)で最も精度が高かったのは触覚分度器法であった。顔向け法は特に周辺部で精度が低かった。本結果から、前方全体(-80度から+80度)を考慮した場合、視覚障害者の音源定位状態を最も正確に表現できる指示方法は、体幹向け法及び触覚分度器法であることが分かった。
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