研究概要 |
脚筋を中心とした全身運動で生じる筋疲労が手などの疲労していない筋を司る大脳皮質運動野の神経細胞興奮性にどのような影響を及ぼすか、あるいは、片側の筋疲労が非疲労筋を司る同側の大脳半球の神経細胞興奮性にどのような影響を引き起こすかについて着目した研究はあまり見られない。このことは、身体運動遂行に伴う筋疲労が中枢神経系、特に大脳皮質運動野の機能局在性という働きに対してなんらかの制限を加える可能性があることを示しており、運動と皮質運動野の機能局在性の関係を明らかにするのは重要であると考えられる。 今年度では、自転車エルゴメータを用いて脚を中心とした全身運動の最大運動強度20、40、60.80および100%の強度によって10分間の運動を行わせた。運動直後、5,10,15,20,30分の回復期に疲労していない右手のFDI筋を司る大脳皮質運動野を磁気刺激装置による二重刺激をし、皮質脊髄系および皮質運動野の興奮性を評価した。その結果、最大運動強度の80および100%の強度で運動した場合、回復5分、10分にテスト刺激によるMEP振幅値の有意な低下、皮質内抑制の有意な低下を示した。さらに左手FDI筋への影響をみると、80および100%の強度で右手と同様の変化を示した。テスト刺激でのMEP振幅値が有意に低下したので、テスト刺激によるMEP振幅値を同程度に誘発できるように刺激強度を調節してMEPを一定にした。その結果も皮質内抑制の低下が起こった(Clinical Neurophysiology、117、2006)。また、左手のグリップ疲労困懸運動が疲労していない同側同筋の皮質運動野にも全身運動と同じ方法で刺激した結果も回復5,10分目でMEP振幅値の低下と皮質内抑制の低下が見られた(生理・生体工学シンポジュウム、2006)。これらの結果は主に脚や手による筋疲労が疲労していない手を支配する運動野にまで影響を及ぼしていることが指摘された。今後、これらの現象を引き起こすメカニズムについて研究を進める。
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