研究概要 |
本研究の目的は,情動発達の重要なステージにある幼児を対象として,生体・行動情報を用いた他覚的な情動評価方法を開発し,情動発達の評価と支援方法について検討することにある。最終年度は以下(1)から(3)を実施し,研究成果をとりまとめた。 (1) 自然な情動変化を引き起こすために,市販されている映画,アニメから,快情動を喚起するシーン(POSI)と不快情動を喚起するシーン(NEGA)を抽出し,POSI-NEGA-POSIの順序で配置した映像バッテリーを作成した。3〜5歳の幼児を対象として,開発バッテリーの視聴を実施した。その結果,3歳児ではNEGAに対する情動反応がPOSIの呈示に切り替わっても残存したが,5歳児はPOSIに対応した情動反応へと速やかな切り替わりが認められた。本研究で開発した映像バッテリーが情動発達研究で利用可能なことを示す結果である。 (2) 実験で得られた生体情報から快・不快を弁別するための分析方法を検討した。呼吸・心臓血管系指標のなかでNEGAとPOSIを弁別し得たのは,伝達関数法で算出した圧受容体反射感度(baroreflex sensitivity:BRS)のみであり,POSI視聴時のBRSはNEGA視聴時より有意に高い値を示した。POSI視聴時には心臓迷走神経系活動が高まることを示している。 (3) LifeShirtシステムを用いた母子同時視聴時の幼児の呼吸・心臓血管系データを計測した。その結果,胸郭と腹部の呼吸運動波形から求めた分時換気量は,情動喚起に伴い有意な増加を示すことを確認した。従って,情動が喚起されたか否かの弁別はサイクル毎に求めた分時換気量に促進的な変化が生じたか否かにより判定可能と考えられる。 以上の結果から,POSI-NEGA-POSIと配列した映像バッテリーは情動発達研究における有効なツールになることが期待される。一方,他覚的な情動評価方法,特にリアルタイムの評価方法については今後更なる検討が必要である。
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