平成19年度は、被験者を増やし、高齢者と若年者の転倒中動作を多角的に比較検討した。さらに、この結果に基づいて、衝撃力の少ない転び方について検討を行い、「安全な転び方」について探求した。すなわち、後方転倒計測システムを用いて、後方への転倒経過局面における体幹筋・下肢筋の筋放電開始時間、足関節・膝関節・股関節変動開始時間及び変動値を分析した。また、若年者10名に対し、2ヶ月間考案した転び方を週3回練習させ、効果判定を行った。 高齢者10名(高齢者群)及び若年者10名(高齢者群)を対象に、自分で転倒を開始する自発的転倒、後傾角度5度及び10度の3条件を設定した。筋電図からみた筋放電開始時間、ゴニオメータを用いた各関節変動からみた反応時間を計測した。側方からのビデオ映像から、転倒中の足関節・膝関節・股関節角度、頭部及び体幹の傾斜角度を求めた。結果を以下にまとめる。 1.高齢者群及び若年者群の足関節の反応開始時間に差異はみられなかったが、高齢者群の膝関節の反応開始時間は若年者群に比べ遅かった。また、股関節の反応開始時間でも高齢者群の方が遅かった。 2.高齢者群の腹直筋、外側広筋、大腿二頭筋の筋放電開始時間が、若年者群に比べ遅かった。 3.両群の角度変化を比較した結果、足及び膝の関節角度で高齢者群が若年者群に比べ小さな値を示した。 4.両群の首の傾斜角度、体幹の傾斜角度及び首と体幹のなす角度を比較した結果、体幹の傾斜角度において、高齢者群が若年者群に比べ小さな値を示したが、それ以外の項目では、両群間に差異はみられなかった。 5.これらの結果から、足と膝関節を大きく、しかも速く屈曲させるスクワット動作の有効性が示唆された。 6.若年者に対し、2ヶ月間考案した転び方を週3回練習させた結果、足関節、膝関節、股関節ともに反応開始が早くなり、筋放電開始蒔間も短縮した。首の傾斜角度、体幹の傾斜角度は、変化が認められなかった。
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