本研究は伝統スポーツの身体技法を研究するための方法論を構築していくことが目的である。方法論の構築に当たっては、スポーツ人類学の視点と方法を中心にすえながら、近接領域の知見にも目を配ると共に、スポーツ科学の研究成果を取り入れていく立場を取る。 本研究において昨年度までは、大きく3つのアプローチによって、身体技法における研究方法の確立を目指してきた。それは次のような視点である。 (1)認知科学的な理論を背景としながら、行為によって生成される認識を自分自身が体現することで、その経験を現象学的な立場から記述するという試み。 (2)伝統スポーツの伝承者の身体経験を彼ら自身の語りの中から引き出すことを目的に、伝承者のライフヒストリーに注目し、そのデータの分析を通して身体技法の伝承の語られ方を明らかにしていくという試み。 (3)身体技法の指導者と学習者との間でおこる相互行為に注目し、これによって形成されていく学習者の認識の世界の記述を目指すという試み。これを実行するための基礎的な手続きとして、両者の関係を作り上げている組織的枠組み(組織構造)に注目しながら、このコミュニティ内部にある慣習的な規範であるとか、何らかの権力構造を明確にしておく必要がある。 以上のようなアプローチによって、伝統スポーツの身体技法の伝承を総合的にとらえ、なおかつそれを厚い記述による民族誌に仕上げるための方法を模索することも副次的な目的となると位置づけてきた。しかしながら、このようなアプローチだけでは一部その綻びのあることが明らかとなってきた。それは身体技法に対する社会的な嗜好性の問題である。そこで最終年度となる21年度は、このような問題も含めながら、身体技法研究の方法論を構築していくことを目的としている。
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